第24回研究大会(2022年6月)での研究発表、および学会誌『言語政策』第18号(2022年3月発行)掲載の研究論文について、学会賞選考委員会ならびに理事会の慎重な審議により発表賞の受賞が決定し、第25回研究大会で表彰式が行われ、表彰状が授与されました。
①発表賞(第24回研究大会)
■口頭発表部門
受賞者:西島順子さん(大分大学)
発表タイトル:イタリアの言語教育における複言語主義の変遷―イタリア人生徒と移民生徒の教育政策のなかで―
■ポスター発表部門
該当者なし
②優秀論文賞(学会誌『言語政策』第18号)
該当者なし
講評 |
西島氏の口頭発表は、イタリアで1975年に提言された「民主的言語教育」が、その後、欧州評議会の複言語主義と結びついてplurilinguismoの新たな概念を構成していることを、言語学者デ・マウロが果たした役割の分析と共に歴史的変遷から明らかにしたものである。 そもそも、イタリアでは1970年代当時、言語格差に起因する教育・社会格差が存在していたことから、それらを是正するため、方言や少数言語などの複数言語を学校教育で承認するように言語教育改革が進められた。それを、1970年代後半以降の各段階における法律の改正や教育課程の改革などを分析することで、西島氏は現行(2012年~)の「カリキュラムのための国家方針」につながるものとして明らかにした。ただし、一連の改革は当初はあくまでもイタリア人生徒のためのものであったという。それが、1980年代以降に移民が急増すると、1989年には移民生徒の存在を考慮した法律「義務教育への外国人の受け入れ」が公布され、その後、複雑化する移民生徒の現状に即した教育が進められた。この過程においては欧州評議会の「ガイド」の草案が参照されるなど、欧州評議会の政策受容が見られることを指摘している。改革の途上においては、デ・マウロが言語学者としてだけでなく政治家としても大きな役割を果たしたことも述べられており、言語政 策研究として深い考察となっている点が高く評価できる。 発表当日も、ダウンロード可能な資料の提示に加え、発表態度や質問者への応答などでも優れた能力を発揮しており、発表賞(口頭発表部門)の受賞者にふさわしいと判断した。 |