第25回研究大会(2023年6月)での研究発表、および学会誌『言語政策』第19号(2023年3月発行)掲載の研究論文について、学会賞選考委員会ならびに理事会の慎重な審議により発表賞の受賞が決定し、第26回研究大会で表彰式が行われ、表彰状が授与されました。
①発表賞(第24回研究大会)
■口頭発表部門
受賞者:中島武史さん(兵庫教育大学 准教授)
発表タイトル:ろう親はコーダに手話を教えようとするのか――ろう学校高等部生徒へのアンケート結果から
■ポスター発表部門
該当者なし
②優秀論文賞(学会誌『言語政策』第19号)
該当者なし
講評 |
中島氏の口頭発表は、ろう学校高等部の生徒が将来子どもを育てることになった場合、聞こえる子どもに手話を教える意欲がどの程度あるかを調査したものである。ろうの親をもつ聞こえる子どもはコーダ(CODA:Children of Deaf Adults)と呼ばれ、家庭で親の言語である手話を身につけることが想定される。 発表では、日本語が圧倒的多数である社会の中で、日本語が優勢になり手話を使用する親とのコミュニケーションに不全感を持つコーダが一定数存在することが指摘され、コーダと移民の子どもたちは言語継承面で共通する課題に直面していると分析された。 具体的には、近い将来コーダの親になる可能性がある存在として、ろう学校高等部の生徒を対象に、コーダをバイリンガルに育てる意欲がどの程度見られるかアンケート調査を行い、その結果、言語を問わずバイリンガルであることは有益だと考える生徒が90%以上を占めることが確認された。他方、コーダを手話と日本語のバイリンガルに育てようとする意欲を持つ生徒は60%で、コーダをバイリンガルにする意欲のない40%の特徴として、「人工内耳を装用している」「ろう学校高等部に入る前は地域の中学校に在籍していた」の2点が明らかにされた。 本発表での考察からは、コーダの手話継承という観点からは、人工内耳装用児の増加と、インクルーシブ教育の推進によるろう学校の縮小は肯定的要素にならないと結論付けることができる。コーダに手話を教えることに否定的な理由に、コーダが聴者であることをあげる生徒がいたことから、コーダの手話継承のテーマは移民の子どもたちの言語継承と重なる点を有するものといえよう。今回の発表が言語政策研究にとって新たな視点を示す優れたものであると判断できるのは、身体条件と言語が結び付けられている点である。 発表当日は、発表態度や質問者への応答などでも能力を発揮しており、以上のことから、発表賞(口頭発表部門)の受賞者にふさわしいと判断した。 |