会長挨拶

皆様
本学会は、前段階の「日本言語政策研究会」の時期も含めると、間もなく誕生から20年を迎えることになります。発起人である田中慎也元会長は、大学だけなく弁護士、報道関係の方にも声を掛けて研究会設立準備をはじめ、2000年に第一回の研究会を桜美林大学で開催しました。研究会は2002年に学会となり、その後2005年には待望の学会誌『言語政策』が刊行されました。その第一号に当時の故水谷修会長は、「従来の研究が『新しい知見の追求』といういわば発見型のものであったのに対して、現在の研究は『問題・課題』の解決をも目指すべきだと考えるように移行してきている」。そして「いま日本言語政策学会が目指している研究のあり方は、日本の学術界がもっとも必要としている研究内容と方法の開発の最先端を担うものだと自負すべきであろう」と書いています。それから十数年、今や課題解決型の学習は一般化して来ました。
ところで、私たちを取り巻く環境は、以前にも増して複雑化しています。私が研究している観光分野を例にしてみると、2003年には500万人であった訪日外国人旅行者は、2020年に4000万人(目標値)になります。目標達成のための施策の中には、言語政策に関連するものが多々あります。外国語併記の表示物は日常の風景になりつつありますし、かつては難関と言われた通訳案内士も、多様化する外国人旅行者の「おもてなし」のために制度そのものが実体化してきました。しかしながら、行政を含め「言語政策」という認識はあまり感じられず、「無意識の多言語化」とも言えるような事象が見られます。外国人旅行者を接遇するために英語という話がありますが、かな表記になった駅名などを漢字表記にすることで、来日客の多くを占める漢字圏からの旅行者にとっては移動しやすくなるのかもしれません。学術的な意味での「実証性」や「批判性」も忘れてはいけないことだと考えています。
喫緊に対処しなければならない課題は、なにも観光分野だけのことではありません。本年6月15日に発表された「経済財政運営と改革の基本方針 2018」には、新たな在留資格による外国人材の受入れや外国人のための生活環境の整備が取り上げられています。これらは以前から本学会でも取り上げてきた日本語教育や多文化共生の課題領域に関連してきます。また、英語だけではない多言語教育、手話や言語的少数者の言語権なども、本学会が取り上げている重要課題です。会員皆様の研究が今後ますます重要なものになっていくと考えております。
学会運営に関しましては、6月の大会で移民政策学会と共催のシンポジウムを行いました。そして韓国言語研究学会(The Korean Association for Language Studies)と協定を締結しました。関連する課題領域で、学会会員が相互に交流を図り、共同して研究活動を行う必要性が感じられてきたことの表れだと言えます。
この学会の会員皆様の研究は、さまざまな領域を横断するものとなっております。そこで、代表となりました私としては、年齢や専門分野を超えて、多くの会員皆様が有意義な研究活動ができるよう努めて行きたいと思っております。今後とも日本言語政策学会をよろしくお願いします。

日本言語政策学会 会長 山川和彦